山頂へ! (富士登山競走編を最初から読む方はこちら) 八合目のウォール・ローゼをギリギリで突破。 あとは、山頂のウォール・シーナを残すのみ。 あの特権階級しか許されない領域に、 はたしてお相撲さんがたどりつけるのか。 脚はもう一杯一杯。 八合目を去年よりも遅く通過したので、 山頂手前の渋滞はさらにひどくなっているだろう。 間に合うだろうか... 自分にはわからない レース中、ずっとそうだ 自分の力を信じても、結果は誰にも分からない だから... まぁせいぜい、悔いが残らないよう走ろう さあ、最後の勝負だ! 頂を目指して! 砂礫の坂道が延々と続く。 余力のない足には堪える... とにかく時間の余裕が無いので、必死に足を出す。 やっとの思いでここまで来たのに、 完走できないなんて、あり得ない。 八合目から上は、大勢の登山客がいた。 「すごい!」 「ひゃー、なんて恰好!」 「かわいい!」 しきりに声をかけてもらうが、 声のするほうに顔を向ける余裕すらない。 腕押ししつつ、ずっと下を向いて進んでいるからだ。 聞こえてはいるので、なんらかの応答はしたい。 そこで、 「ぇす!」 と、返事を返していく。 なぜこんな意味不明な音を口にしたのか解説しよう。 本来であれば、 「ありがとうございまーす!」 と言いたい。でもそんな余力はない。 「あざっす!」 という省略形すら、言う余力がない。 最も短くすれば、 「っす!」 となるが、これでは子音だけで相手が聞き取れない。 そこで、自然と口から飛び出た言葉が、 「ぇす!」 これだ。 「おす!」 でも、 「うす!」 でもなく、 「ぇす!」 これが体力ゼロの人間が 最小の力で発することのできる感謝の言葉だ。 富士山で驚きの真実を発見してしまった。 何を言いたいのか相手にはまるで伝わってないだろうが 「なんか反応はした」 という事実だけは、わかっていただけたのではないか。 いや、いつもはもっと愛想よく応答するんですよ… 申し訳ない。 残り15分。 渋滞すげェ・・ パッと見てわかるとおり、半数が登山客。 つまり、のろい。 これは厳しい... 残り10分を切る。 一向に渋滞は解消しない。 むしろ、ますますひどくなっている。 このままコース左側を進んでも間に合わないと判断し、 右側に進路を変える。 人のいない岩場を這い登って進むしかない。 歩きよりも体力を使うが、岩場なら腕の力を使える。 もうそれしかない。 残り5分。 (すごい所で応援してる女性がいるな…) と思いながら上っている時、 突然、右足の太ももに ビリビリッッ !! と電流が流れる。 なんだこれはっ!? こ、これは・・ なにか断裂したんじゃないか? まずい。 足を動かせる分だけ、攣るよりはましだが、 脚を出す度に激痛がぁあっ・・! 前は大渋滞、 足は踏み出す度に激痛。 地獄だ イヤ、地獄になったんじゃない 最初からこのレースは地獄だ… 獣化だか何だか知らないが、 そんなものでなんとかなるレースではないのだ 何にせよ… 最低の気分だ ここまでか。 せっかくここまで来たというのに… いや。 まだだ。 こんなところで、くたばってたまるか。 右がダメでも、まだ左が残ってるじゃないか。 左足1本でも登るんだ。 重心の9割を左足にかければいい。 右は捨てるんだ。 戦え! どれだけ痛みが強くても関係無い。 どれだけこのレースが残酷でも関係無い。 戦え! 戦え!! 最後まで戦え!!! もうあと数分なんだ。 痛みは耐えろ! 足を止めるな!! うおおお!!! 残り3分。 スペースがある! 右から抜くんだ!! 残り1分。 ついに、山頂手前の鳥居が視界に入る。 「目標、目の前!」 自分を叱咤するが、もう1歩も走れない。 「お相撲さーん!」 「どすこい、どすこい!」 「ラストスパート!」 たくさん応援してもらっているが、全く耳に入らない。 意識のほぼ全てが、右足の激痛に持っていかれている。 もう時計を見る余裕すらない。 階段の右角でスタッフの方が 「滑るから、気をつけて~」 と言ってるが、それどころではない。 足だけでは、もう体を前に運ぶことができない。 極端に前傾して、倒れ込む力を使って登って行く。 (んああぁぁ・・!!) と心の中で叫び続け、 左足1本で山頂手前までやってきた。 しかしここで、ついに、、、 ブチッ 左足にも何かが切れたような感触が走る。 (左足もかっ・・!) 左足だけに負荷をかけ続けた代償だ。 七合目の岩場で、素手で雑に手をつきすぎたせいか、 いつの間にか両手からも出血している。 両手両足すべて逝った。 まさに満身創痍。 あとちょっとなのに。 もうちょっとなのに。 そこがゴールなのに。 どうして… 俺の… 足は… 動かないんだ… もうあと少しなんだよ! 頼む、動いてくれ! あと1分もせずに、すべて決着するんだ。 どうにか、どうにかしろ・・! 痛みには痛みを。 もうあれしかない。 ガリッ 両頬の裏側の口内を歯で強烈に噛んで、 痛みを作り出す。 出血しようが関係ない。 噛み切るくらいの圧力で噛むんだ! その痛みで、足の痛みをごまかせ!!! 脳は複数の痛みを同時に認識できない。 複数ある場合は、一番強い部分の痛みしか感じない。 だから激痛の足よりもさらに強い痛みを作り出せれば 脳は足の痛みを感じにくくなる。 そうすれば、その隙に足を前に出せる。 去年、サブ10を目指して激走した、 くびき野ウルトラのラストで使った手だ。 もうそれしか前に進む方法はない。 この狂気の沙汰ともいえる方法にすがるしか。 口腔内を血だらけにして、 足の痛みをかろうじてごまかす。 渾身の力で腕押しして、階段を登る。 階段の内側を、他の選手が駆け上っていく。 自分も、 「走らんかい!」 と、しきりに思うが1歩も走れない。 断言できる。 あのとき、うしろから殺人鬼が走って来たとしても、 間違いなく1歩も走って逃げられなかっただろう。 もはや前進できていること自体が奇跡だ。 上で完走者達が応援しているが全く目に入らない。 「急げー!」 「走ってー!」 皆が応援してくれているが、全く耳に入らない。 見えているのは、次の1歩を踏み出す地面のみ。 音など何も聞こえない。 頭の中は発狂しそうなほどの痛み。 それが全て。 ゴールはすぐそこだ。計測マットは・・? 見えたっ! 飛び込めーー!! 制限時間6秒前のゴール!!! ゴール後、すぐ近くの空いてるスペースに倒れこむ。 息が整うまで、しばらく放心状態で突っ伏していた。 こんなに追い込まれたレースはこれまでなかった。 ゴールでも笑顔なんて全くできなかった。 ゴールの瞬間にあったのは痛みだけだ。 それでも、 走った甲斐があったな… 力士が今日、初めて…富士登山競走を完走したよ… 薄れゆく意識の中でぼんやり思った。 制限時間ギリギリのゴールシーン このレースは、なんと表現すればいいんだろう。
とにかく出し切った。 というか、出してはいけない領域まで出てしまった。 Goproで録るランしておいて、本当に良かった。 見返す度に、我ながら 「よくやったわ...」 と思う。 と同時に、あのときの想像を絶する痛みが蘇るので 2度と同じことをしようとは思わないだろう。 一生忘れない、渾身の一走だった。 さて、レース後の話に戻ろう。 自分のゴールから数秒間は、 「おめでとう!よく頑張った!」 という声援が続き、制限時間を過ぎると、 「お疲れさん、頑張った、ナイスラーン...」 という掛け声に変わる。 山頂に広がるのは、美しくも残酷な世界。 よろよろと立ち上がった後、 汗でずぶ濡れの1000円札でコーラを購入。 レースの余韻に浸りつつ、コーラを飲んでいると、 「まさか、ここまで登ってくるとは思わなかったよ~」 「よくその格好で完走出来ましたねー」 あちこちから話しかけられ、しばし談笑。 そのあと、すぐに下山を始める。 さっさと下りないと、汗冷えして風邪をひいてしまう。 着替えを持ってるわけないし、衣装を脱いだら寒すぎるので、お相撲さんのまま、ゆっくり下りていく。 残念ながら今年は霧で視界ゼロ。 山頂の景色は楽しめず。 まぁいい。完走できたし。 というか霧のおかげで涼しかったから完走できたのだ。 いろんな人と話しながら下りていく。 八合目を私と同じ時間に通過した年配の方は、山頂は間に合わないだろうと諦めてゆっくり上ったそうで、私がギリギリ間に合ったのを聞いて驚いていた。 山頂ではNHKが撮影していたそうだ。 ラン☓スマだろうか。 五合目まで下って、預けていた荷物を引き取る。 ここで靴につけてる計測用タグを回収していた。 さて、タグを外すかと思って靴を見ると、、、 ない。 あれ? タグが・・・ない? ひょっとして、つけ忘れた・・? うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ そんなわけで、2015年の富士登山競走は 計測用タグのつけ忘れにより、まさかのDNS。 もちろん、完走Tシャツももらえず。 ・・ということで、 なんの成果も... 得られませんでしたぁあッツ! 以上、ウォール・マリアよりお伝えしました。 追記)翌月、お相撲さんの仮装でUTMBに挑みました。 < 戻る 追記)2年後にまた参戦しました。 |
by おすもーさん
<海外レース>
Madeira(マデイラ) 4K Endurance Trail(逆トルデジアン) Andorra(アンドラ) HK168(香港) Spartathlon(スパルタスロン) UTMB 2015 Trans Gran Canaria Grand Raid Reunion Mt. Kinabalu Climbathon UTMB 2014 The Sahara Race(4deserts) <国内トレイル・Long> 上州武尊山スカイビュー 信越五岳 Ultra Trail Mt.FUJI(UTMF) OSJおんたけウルトラ <国内トレイル・Short> 立山登山マラニック 富士登山競走(山頂)2017 房総丘陵・養老渓谷 2017 鋸山ラウンド 八重山トレイル OSJ奥久慈トレイル 富士登山競走(山頂)2015 TJARトレーニングキャンプ 富士登山競走(山頂)2014 NASUロング スパトレイル 外秩父トレイル 神流マウンテンラン 美ヶ原 2013 富士登山競走(5合目) 伊豆トレイルジャーニー 鋸山 2012 玉川トレイル in しずおか 武尊山スカイビュー50k 美ヶ原 2012 RUN & BIKE in NOZAWA TOKYO成木の森 青梅高水山 スノーシューレース in 水上 房総丘陵トレイル スノーシューレース in 妙高 おんじゅくトレイルラン 高尾山天狗トレイル 長瀞アルプス <国内ロード・Long> 萩往還マラニック(250km) さくら道国際ネイチャー クレージーラン(沖縄一周) 萩往還マラニック(140km) T.O.F.R.(沖縄一周) <国内ロード・Middle> いわて銀河ウルトラ 奥熊野いだ天ウルトラ NAGOURAマラソン 隠岐の島ウルトラ くびき野ウルトラ 飛騨高山ウルトラ 能登半島すずウルトラ 秩父札所めぐりウルトラ 野辺山ウルトラ 2013 富士五湖(112km) 2013 伊豆大島ウルトラ 丹後ウルトラ 野辺山ウルトラ 2012 富士五湖(112km) 2012 <国内ロード・Short> 館山若潮マラソン 2017 佐倉朝日健康マラソン 伊豆大島一周マラソン 2015 伊豆大島一周マラソン 2014 谷川真理ハーフ 2014 谷川真理ハーフ 2013 富士山マラソン 谷川真理ハーフ 2012 多摩川チャレンジ <トライアスロン> バラモンキング(Long) 館山わかしお(Short) 横浜シーサイド(Sprint) Archives
11月 2017
|