夜道を進む... (アンドラ編を最初から読む方はこちら) ヘッドライトを装着してすぐに真っ暗になる。 とにかく足場が悪いので、ライトで照らした場所を目を皿のようにしてガン見しつつ、転ばないように慎重に下っていく。 日中でも大して走れない道だが 夜はさらにスピードを出せない。 もっと光量の強いヘッドライトが欲しいと切実に思った。 見晴らしの良い所を進んでいるので 遥か遠くにランナーのライトの光が見える。 遠くを見てもいいことは何もないので フラグと自分の足元だけを見るようにして進んでいく。 エイド発見! 50km地点の「Refugi Comapedrosa」に到着 着いたのは23時過ぎ。前のエイドから4時間弱。 このときは気づいていなかったが ビリランナーのここの到着時刻の目安は23時。 早くもオーバーしている。 コマペドローサの上りに時間かかりすぎたか... ヘッドライトをつけてから1時間くらいだが 地面に集中し続けたせいか、気疲れした。 明るくても大変なコースなのに 暗いとさらに気を使う必要がある。 まだレースの1/3も進んでいないのに、ぐったり。 スープをもらって、ベンチでまったり食事していると 年配の日本人ランナーがエイドにやってくる。 スタートしてすぐの所で、少し雑談した方だ。 私が爆死したレユニオンを以前に完走されている。 アンドラは以前にリタイアしていて リベンジマッチなのだそうだ。 「73kmのエイド(標高約1000m)に下りてから、 また標高2500mまで登り返す所がポイントだと思う」 とアドバイスをもらう。 日本語で会話したのは、最初のエイド以来。 母国語で話ができると、ちょっと気が紛れる。 防寒対策でレインウエアを衣装の下に着込んで出発。 このエイドには25分滞在。 最初は上り、後半は長めに下る10kmの区間 エイドを出てすぐに、先ほどの方に軽やかに抜かれる。 「足取り軽いですね~」 って声をかけたけど、自分が遅すぎるんだな... まず上り。普段であれば、 「上りか・・」 となるところだけど、このときは 「下りよりはマシだ、うん」 という感じだった。 夜は路面がよく見えないので、上りのほうが気楽。 前後のランナーが離れているので、 一人で淡々と進み続ける。 2600mまで上り、下ってから、登り返す。 風が吹き抜けるので寒い。 首元が冷えるので、レインウエアのフードをだして ちょんまげのかつらの上からかぶって暖かくする。 ちょんまげが見えないとSUMOっぽくなくなるが そんな見栄えを気にしている場合ではない。 そして、長い下りに入ったところで、 想定外の事態に陥る。 眠い。 このレースは制限時間62時間で、夜を2回超える。 なので、2晩目に眠くなることは覚悟していたし、 そこでコーヒーを飲んでカフェインを効かせるために カフェイン断ちを1ヶ月してきた。 しかし、1晩目は多少眠くなることはあっても 乗り切れるだろうと思っていた。 だが、ちょっと眠いのでなく、猛烈に眠い。 なんでこんなに眠いんだー! 考えてみると、UTMB・レユニオン・グランカナリアは スタート時刻が夕方~深夜だった。 なので、初日の夜は大して疲れていない。 しかし、今回は朝スタートで、既にかなり疲れている。 そのせいかもしれない。 そういえば、HK168も朝8時スタートで 初日夜に眠気に耐えきれず、コース脇で寝たんだった。 朝スタートのレースの場合は1晩目から強烈に眠くなる、という事実にアンドラの地で気づく。 もうひとつの要因は時差ボケだろうか。 今回、レース前の2晩の眠りがちょっと浅かった。 すぐ眠れたが、熟睡ではなく、夜に2回くらい起きた。 熟睡できなかったツケが回ってきたのかもしれない。 今まで時差ボケ対策をしたことがなかったが 今後は機内で寝る時間を考慮したほうが良さそうだ。 いや、そんな分析はどうでもいい。 こんな夜道で眠い理由がわかったところで どうしようもない。 なんにせよ眠いのだ。 圧倒的に眠い上に、徹底的に眠い。 鬼眠い。 自分がここでできる眠気対策は、 1.エスタロンモカを飲む(カフェイン) 2.自分の顔をひっぱたく(外部刺激) 3.ラジオを大音量でかける(騒音) 4.息を止めるの繰り返す(酸素不足) 5.ブラックガムを噛む(味覚刺激) 6.コース脇で寝る といったところ。 歩きながら各施策を検討した結果、 1.ここでカフェインを飲むと今夜はそれでいいが、2晩目の効果が薄れてしまう。カフェインは2晩目にとっておきたい 3.山奥過ぎてラジオの電波がつながらないので不可。"ザー"っという音を大音量にするとイライラして逆効果 4.標高高いので酸素摂取量を減らすと高山病の恐れ 6.気温低いのでコースでは寝たくない。 体が冷えて固まってしまう。 ということで、 「2.定期的に自分の顔をひっぱたく」 のと 「5.ガムを噛む」 で1晩目を乗りきることにする。 その施策は20-30分くらいは効果があった。 しかし、そのあとさらなる強烈な眠気に襲われる。 ダメだ、やっぱり眠い... 路面に集中しないといけないのに、全く集中できない。 そんな輩に待ち受けているモノは、 「転倒」 だ。 転びに転ぶ。 だるまかってくらい転んだ。 前につんのめって転び 足を滑らせて後ろに転ぶ。 コースがどうなっていたのか知らないけど、 小さな沼地(?)がそこら中にあり 何度も足がズボッと埋まり、靴は泥だらけ。 雪渓地帯を通っていたのかもしれない。 「もっと集中しろ!」 と何度も言い聞かせるが、効果なし。 文字通り、「七転び八起き」で下っていく。 普段のレースでは、気をつけていることもあり レース中に転ぶことはほとんどない。 1回も転ばないレースも多いし、 UTMFでは1回、UTMBでも2回しか転んでいない。 それがもう嘘のように、怒涛のごとく転倒する。 笑えるくらい転ぶ。笑ってる場合ではないけど。 「もうヤダ・・」 と思いながら、転がり落ちる感じで下っていく。 そしてついには、まっすぐ進めない状態に陥る。 どうする...? ここは標高2500mだ。 コース上で寝るのは避けたい。 でも、どうにも眠気をこらえきれない。 寝るしかない。 コース脇で寝ることを決断。 防寒着を着てエマージェンシーシートにくるまって アラームもかけずに寝る。 zz zzz ・・何分寝たのかわからないが 寒さで目が覚める。 多少、眠気は改善した気がする。 もう少し眠気をとりたいところだけど これ以上寝ると低体温症になってしまう。 行こう。 そこからも前に転び、うしろに転びしながら、 なんとか下っていく。 どこまで進んでもエイドらしき明かりが見えてこなくて エイドが果てしなく遠く感じた... 這々の体で60km地点の「Coll de la Botella」に到着。 着いたのは3:45。 ビリランナーの到着目安は1:10。大幅に遅れている。 ビリランナーでも2時間10分で走る区間だったのに 4時間以上かかってしまった。 なんてこった! レース前は、「13000mの上り」を気にしていたが 「睡魔」によって、まさかの大ブレーキ。 こんなことになるとは... 小屋に入ると、スタッフが「おー、よく来たな!」と 迎えてくれたが、それに応える余裕は全くなく。 「寝たい・・」 と伝える。 奥の部屋にある簡易ベッドは空いてなかったので 空いてるテーブルで寝させてもらうことに。 寝る前に、何時に起きるかを考える。 次のエイドは制限時間がある。朝9時。 そこへは4時間半は必要だと思われる。 そうすると4:30には出ないといけない。 起きていきなり出発できるわけではないので 4:15には起きる必要がある。 時計を見るともうすぐ4時。 4:15起きでは、睡眠時間少なすぎる。 最低でも30分は寝ないとムリだと思い、 4:30に起こしてもらって、準備して5時前に出発、 という計画にする。 次の区間は下りがメイン。 これまでのコースから察するに 簡単には走らせてもらえないだろう。 でも明るければ、速く下っていける可能性はある。 というか、もうそうするしかない。 起きたら頑張ろう。 今後の計画が決まったので、耳栓とアイマスクをし、 テーブルに突っ伏して、3秒で眠りに落ちる。 ここで寝る。おやすみなさい... 起こされる。えっ、もう4:30? (ホントにもう30分経ったのか…?) 起こされて、時計を確認すると 残念ながら4:30を示している。 30分寝たのは事実のようだ。 なんか一瞬の出来事だった。 眠った気がしない。 そして眠気があまり解消していない。 でも行かなければ... 立ち上がって出発の準備をする気になれず、 しばらくテーブルでボーっとする。 そして、 「もうここでリタイアでいいんじゃないか?」 という悪魔の囁きが聞こえてくる。 (フラフラの状態で進んだら、滑落するかもよ…?) (コマペドローサは上ったし、もういいんじゃない?) (60kmでこの状態じゃ、もう完走は絶望的だし…) (どうせリタイアするんなら、もうここでよくね…?) リタイアする言い訳が頭の中にどんどん湧いてくる。 (何を言ってんだ!) (また寝るだと? アンドラまで何しに来たんだ!) (最後まであきらめるな!) という天使の励ましも、ちらっとは聞こえるが 眠気のせいで勢いがない。 しばらくリタイアするかどうかのせめぎあい。 そしてリタイアに心が傾きつつある中、ふと 「ここでリタイアしたとしても、 どっちみち自力で下山するんじゃないの?」 という疑問が頭に浮かぶ。 ここは山小屋だ。 リタイア者を回収する車が来れるような場所ではない。 怪我をしたのならともかく、 歩けるのなら、自力下山するのが当然だろう。 (遅かれ早かれ下山するのなら、 さっさと下山したほうがよくない?) と思った。 この考えで心が決まり、出発を決意。 すんでのところでリタイアを回避する。 そしてノロノロと立ち上がり、外に出る。 寒い! テラスでコーヒーをもらって体を温める。 なんの迷いもなくここでコーヒーを飲んでしまったが、ここで飲むくらいなら、ここに来るまでにエスタロンモカを飲めばよかったんだよね... 5時前に出発。 フラットな道の後に登り、一気に1300m下る13km区間 まずはフラットな道を進む。 カフェインが効いているようで眠気はない。 足場が土で安定しているので走り所なのだが 走る気力がわかない。 うしろからどんどん選手達が走ってきて抜かれていく。 「おはよう! 元気か?」 「歩いてないで一緒に走ろうぜ!」 抜かれ際に声をかけられる。 自分も彼らに習って、何度か走り出してみるものの すぐ歩きに変わってしまう。 足の筋肉痛がひどいわけでもないのに走れない。 メンタル弱い... ピッチを早くすることだけは最低限意識して ひたすら早歩きで進む。 朝5時半。ようやく夜が明ける 登り始める。明るくなってきたー いい景色。リタイアしなかったから見れた景色だ ヘリがすぐ近くを通過。救護かな? 稜線を進む。見渡す限り、山。 7時前にBony de la Pica(2406m)に到着。 ここにもスタッフが3人。こんな極寒な所で、 夜通しゼッケンチェックしてくれてたのか。 ありがたい! スタッフのおじさんが手を握って、 「Congulatulations!」って言ってくれた。 関門時間が気になるので 休憩せずに、すぐ下り始める。 が・・ 恐ろしい斜度! 右に「警告」看板あるぞ! ロープの貼ってある左折地点にスタッフが3人いる。 夜に間違って直進しないように声かけしてたようだ。 エイドまで残り6.5kmとのこと。 関門まであと2時間。 通常のコースであれば、下り6.5kmだったら 2時間あればまず大丈夫だけど、ここはアンドラだ。 はたしてこの先は走れる道なのだろうか... 急ぎたいのはやまやまなんだけれども、 走れる道ではない... 救護スタッフと寝袋にくるまった選手がいた この先、道がすごそうだな... 道が狭くて、荒れてて、しかも斜め。 滑ったら左手の谷底へ一直線だ。 「仮装したまま滑落死」 なんてまっぴらゴメンだ。慎重に行かねば。 そして、ここから15分間、 鎖場を含めたデンジャラスゾーンに突入。 肝を冷やすようなシーンの連続だった。 剱山のヨコバイクラスのヤバさ。 (絶対、生きて、帰る!!) みたいな「海猿」なセリフが頭にコダマしたよね。 Goproで撮っておけばよかった。 まあ撮る余裕がないくらいヤバかった。 危険地帯を通過して、ひと息つく お腹が空いたので、この辺りで朝食を食べる。 ここまで全然走れておらず、 次の関門は厳しいなと覚悟し始める。 制限時刻まで残り1時間。相変わらず走りづらい.. 残り30分。遠くに小屋とスタッフが見える。 あれがエイドか? 間に合うかも! 残念ながら、ただの通過点だった。 ここからまた少し上る あの町がたぶんエイドだ。まだまだ遠いなー 制限時刻の9時を過ぎる。 レース終わった... スタートしてからの26時間を振り返る。 もっとどうにかならなかったのか、 一人反省会を脳内で繰り広げながら、とぼとぼ下る。 ようやくトレイルを抜ける。拍手で迎えてくれた ロードを上って、 73km地点の「Margineda」に到着 エイドの入口で日本の方から話しかけられ、
「地獄を見ました...」 と苦笑いで話して、建物の中に入った。 |
by おすもーさん
<海外レース>
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